「道は天地自然の物にして人はこれを行うものなれば、天を敬するを目的とす。天は人も我も同一に愛し給うゆえ、我を愛する心を以て人を愛するなり。」

人間の道は、天地自然のものであります。人間は天地自然の賜物であり、また、天地自然を本として生存しているので、天地自然を敬うことが人間本来の目的であります。しかも天地自然は他人も自分も同様に愛されていますから、自分を愛する心をもって他人を愛さなければならないということです。これが天地自然の道であり、同時に人間の道であります。

南洲翁の「敬天愛人」の思想は、この一節から出ております。人間の道を天地自然におかれたことは、天地自然は真理であり神であり、愛であり仁であるということです。

元来、人間は神の子であり、人間には、神性が宿っているのであって、良心とか誠とか愛とかは、神性そのものであるというのです。また、人間の生命も大自然の生命そのものの中にあるのであって、自分の身体も実は自分のものではないのです。それを人間は気づかないのです。南洲翁が、人間の道を天地自然において、敬天愛人を説かれたことは、こういう深い根本にふれておられます。